青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

挿絵本

産院の A · E · マルティとG · ルパープ

「現代育児学の問題と諸相」1943年刊 上の画像はアールデコ挿絵本の中でもかなり珍しい作品です。といっても希少というわけではありません。無記番なのでかなりの部数が発行されたはず。珍しいのはその内容で、なんと出産と育児学、それも内容からして家庭向…

UNIQUE AU MONDE " 一点もの " 物語 そのⅡ

ジェラール・ドゥーヴィル著、A・E・マルティ挿絵「誘惑者」1927年、ラテンアメリカ愛書家協会刊 【 存在感 】 マーブル紙張りのスリップケースに収まる大ぶりの一冊。ブルーの総モロッコ装にはタイトルの箔押しすらありません。高さ30cm幅8cm、ただならぬ存…

UNIQUE AU MONDE " 一点もの " 物語

ド・ビラン著、A.E.マルティ挿絵「愛のしずく」1954年、著者刊。 結局、蔵書自慢になりますがなにとぞご容赦を・・・ さて、アール・デコ挿絵本の多くは限定出版で、一冊ごとに「記番」つまりシリアルナンバーが振られています。とはいっても例えばマルティ…

「アール・デコ挿絵本」の本 Ⅱ フジタとマルティ

画像左から「藤田嗣治と愛書都市パリ」「藤田嗣治 本の仕事」「Marty! Marty! 1, 2」 挿絵本に限らないでしょうが、コレクションの最終盤では色々なことが起こります。テンパイ状態(あと一点)からなかなか最後の一作品に行き当たらなかったり、未知の作品が…

ポショワールの謎 その2

上段 : ピエール・ド・ロンサール「マリアの恋歌」マルティ挿絵 / 下段 : 挿絵の別刷りと試し刷り二点。 前回、挿絵のカラー部分はポショワールと木口木版の組み合わせらしいと見当をつけました。今回は線画が刷られたグラシン紙を見てみましょう。それにし…

ポショワールの謎 その1

下段左から、刷り上がり、輪郭線のスミ版、色版の試し刷り アールデコ挿絵本の大きな魅力はポショワールという独特の彩色法です。1910年頃に始まり1950年代には消滅してしまいました。ただこの技法、詳しいことがあまりわかっていません。仕組みは簡単で、要…

「アール・デコ挿絵本」の本

鹿島茂「バルビエ X ラブルール」「モダン・パリの装い」「アール・デコの挿絵本」(順に求龍堂、求龍堂、東京美術) 荒俣宏「流線型の女神」「不思議のアールデコ」「二十世紀イリュストレ大全」「ブックス・ビューティフル Ⅱ」(順に牛若丸、みき書房、長崎出…

近代文学を彩る口絵 鏑木清方と鰭崎英朋

左二点「月に立つ影」の口絵と原画 ( 鰭崎英朋 ) 。右二点「青春」の口絵と原画 ( 梶田半古 ) 。(「鏑木清方と鰭崎英朋」太田記念美術館刊より) 都知事の厳命で国公立の美術館が軒並み休館する中、ひっそりと開いている太田記念美術館を訪れました。鏑木清方…

A・E・マルティ 挿絵本ランキング BEST10

第二段左から「フローラの王冠」「誘惑者」「エルネスティーヌ」/ 第三段左から「雅歌」「エローとレアンドル」「君と僕1939年版」/ 第四段左から「青い鳥」「風車小屋便り」「愛のしずく」「シルヴィー」 挿絵本に限らずですが、一人のアーティストの全作品…

A・E・マルティ 挿絵本ランキング (その5 )

〈 印刷による挿絵本 〉 上段左から二点「聖書物語」、上段右と下段左「愛の詞華集」、下段中と右「現代育児学の諸相」 「印刷」とひとくくりにしていますが、ジャンルは子供向けの絵本、実用書、そして文学作品とさまざまです。面白いのは子供向けの絵本や…

A・E・マルティ 挿絵本ランキング (その2 )

〈 第1ゾーン ポショワール挿絵本 / 2000部以上 〉 上段左から「青い鳥」「君と僕 1939年版」「七宝とカメオ」 / 下段左から「風車小屋便り」「ミュッセ作品集」「ペレアスとメリザンド」 ここは挿絵本のボリュームゾーンです。多くの出版社がフランス文学の…

A・E・マルティ 挿絵本ランキング (その1 )

シャルル・ド・ゴール空港で足止めをくっていた一冊が三週間ぶりに届きました。待望の一冊です。これでめでたく、A.E.マルティの挿絵本59点をすべて手にすることができました。引き続きの目標は、トリアージや装丁によってコレクションを入れ替えていくとい…

アール・デコの “ それから ”  G・ルパープ

以前、 “ あの人は今 ” というバラエティ番組がありました。かつての人気者の今を覗き見るという失礼な番組です。考えてみれば、世の “ 流行りすたり ” に比べて人生の方が長いのは芸能界に限らず厄介なことですね。アール・デコのスター達は大流行の後をど…

お薦めの一冊「七宝とカメオ」A・E・マルティ

たまたまブログを見たアンティーク好きの旧友からメールで 「アール・デコ挿絵本なるものを一冊手に入れてみたいがお薦めは ? 」とのこと。ウーン一冊だけとなるとこれは意外に難しい ! 手始めはポショワール彩色の挿絵本がいいでしょう。なんといってもアー…

愛書家たちの名残り

上段左 / 「風車小屋便り」と絵はがき。上段右 / 「聖書物語」とクリスマスカード。下段左 / 「誘惑者」。下段右 / 綴じ込まれていたジェラール・ドゥーヴィルからラ・ロシュフコー伯爵への書簡。 挿絵入りのミュッセ作品集を手に入れたときのこと。大きな国…

“ 集めた本を読むわけがない ”

上のタイトルは鹿島茂著「それでも古書を買いました」の見出しです。挿絵本も同様で、コレクターにとってそれらは一種の美術品か西洋骨董であって、決して読書のツールではあリません。もちろん同時代の愛書家たちも読むために高い挿絵本を予約したわけでは…

“ ミュッセの主人公 ”  イリュストラシオン1931年クリスマス号

上段 : 原画(オフセット印刷) / 下段 : ポショワールによる挿絵 ミュッセ全集ピアッツァ社の「マルティ挿絵版ミュッセ全集」が刊行される直前、絵入り新聞イリュストラシオンの1931年クリスマス号に「ミュッセの主人公について」という記事が載りました。タ…

" 召喚 " されたルネッサンス美女たち    「バーデンの浴場」G.バルビエ

上段 : バルビエ挿絵「バーデンの浴場」/ 下段 : 左3点 クラナッハ、右端 ラファエロバルビエのファイルには時空の異なるたくさんの様式がストックしてあったに違いありません。テキストに合わせて自由に様式を選び、イメージのおもむくままにバルビエワール…

" 愛書家クラブ " という贅沢

上段 : 湯川72倶楽部、1986年刊 村上春樹 「中国行きのスロウボート」 / 下段 : ラテンアメリカ愛書家協会、1926年刊 ジェラール・ドゥーヴィル 「誘惑者」 A・E・マルティ挿絵 挿絵本の発行元として時折 ” LES BIBLIOPHILES DU ~ " と記されていることがありま…

アールデコを彩った " ポショワール " その2

ポショワール+フォトタイプ印刷 : 左から「ある子供の物語(オールテキスト部分)」「シルヴィー」「至高の青春 & ある貧しい将校」 ポショワール+ヘリオグラビア印刷 : 左から「静観詩集」2点、「ある子供の物語(カット部分)」 ポショワール+線画凸版?…

アールデコを彩った " ポショワール " その1

ポショワール+木口木版(スミ版): 左から「フローラの王冠」「ミュッセ全集」2点 ポショワール+木口木版(色版) : 左から「雅歌」「エレーヌのソネット」「カサンドルの恋歌」 ポショワール+エッチング : 「誘惑者」3点とも。 ポショワールはアールデコ…

知られざるアーティスト          アンドレ・ドマン「悪の華」

今でこそファンの多いアールデコ挿絵本ですが、日本で知られはじめたのはせいぜいここ十数年ではないでしょうか。 鹿島茂氏は1993年に出した「バルビエコレクションⅡ ビリチスの歌」で自著を「ビリチスの歌(バルビエ挿絵)の初紹介」と述べています。また荒俣宏氏…

挿絵本を創るもう一人のアーティスト

ペア画像の左が原画、右が挿絵。 上段から「誘惑者」、「ウルスラ・ミルーエ」、「愛のしずく」。 原画 A.E.マルティ アール・デコ挿絵本の魅力の一つは、挿絵が印刷ではなくポショワール、エッチング、リトグラフといったいわゆる版画であることです。中でもポショ…

フランスからの郵便・宅配事情

(本当に宅配無法地帯?) フランスの宅配事情についてはネットにたくさん記事が上がっています。多くは日本から送った荷物の遅配、誤配、破損などで、それだけを見ているとフランスはまるで宅配無法地帯のようですね。確かに配達段階ではいろいろ問題があるの…

「子供のための8つのシャンソン」             A.E.マルティ

#アールデコ #マルティ #楽譜集 #製薬会社のノベルティ かわいいオマケですね。 この作品は子供向け薬用シロップの販売促進用に作られた歌曲集です。すでに知られていた8つの詩にオリジナルの曲がつけられています。作曲家C.A.P.リュィサンは調べてみてもあ…

異界の演出家 G.バルビエ

上段 影のない世界の人々 「艶なる宴」 下段 不思議なクリーチャーたち 「バーデン - バーデンの湯治場」 バルビエの描く世界に光と影はありません。いや光は確かに存在するのですが、強く射して影を作ることはなくあたりを漂うかのようです。そして絢爛たる色彩…

光と影の巨匠 A.E.マルティ

上段「逆光の幸福感」/ ウルスラ・ミル―エ、子供の物語、ミュッセ全集、シルヴィー、エルネスティーヌ 下段「美しい夜の情景」/ 青い鳥、アフロディテ、雅歌、シルヴィー、サッフォー オークションを見ていると、どうやら日本でのアール・デコ挿絵本の一番人…

ファッションプレートになった       「お菊さん」と「お梅さん」 S.ソヴァージュ

シルヴァン・ソヴァージュはなかなか器用な画家だったようです。「青髭と七人の妻」に見られる力強くユーモラスな木版画がよく知られていますが、ロスタン全集の「鷲の子」では小さなカットを手堅くこなして、フルページ挿絵を担当したマルティの引立て役に廻って…

もう一人のビリティス 「ビリティスの歌・完全版」 G.バルビエ

アールデコ挿絵本の女王「ビリティスの歌」に別バージョンが存在することは、ファクシミリ版(復刻版)の案内メールで初めて知りました。 で、2週間がかりで送られてきた「ビリティスの歌・完全版」(ファクシミリ)を手に取った印象はというと「とてもチャ…

一家に一本ピエール・ドゥ・ロンサール      「愛の詞華集」A.E.マルティ

#ピエールドゥロンサール #ピエールドゥロンサール と#ギーサヴォア ルネッサンスの宮廷詩人にちなんだ名のバラがあります。毎年この時期に色気のある大輪を惜しげもなく咲かせる名花で、バラファンの間では「一家に一本ピエール・ドゥ・ロンサール」と揶揄さ…