青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

" 愛書家クラブ " という贅沢

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上段 : 湯川72倶楽部、1986年刊 村上春樹 「中国行きのスロウボート」 / 下段 : ラテンアメリカ愛書家協会、1926年刊 ジェラール・ドゥーヴィル 「誘惑者」 A・E・マルティ挿絵

 

挿絵本の発行元として時折 ” LES BIBLIOPHILES DU ~ " と記されていることがあります。訳すと「 ~ の愛書家達 」 となりますが、いわゆる読書研究会ではありません。書物好きが集まって作家や挿絵画家を選定し、好みのスタイルでプライベートな限定本を発行する一種の頒布会です。

少ない例ですが、日本でも 1980年代 " 湯川72倶楽部 " という愛書家クラブがありました。当初の会員が70名、それに著者用の2冊を足した合計の発行部数が " 72 " の由来だそうです。画像上段は赤い総革装がかわいい村上春樹の小型本で、今も古書市場で人気です。

本家フランスでは19世紀から現代まで、分かる限りでも30以上の愛書家クラブが存在し、特に1920~1930年代は盛んだったようです。中には " フランス自動車クラブ愛書家サークル ” などというのもあって、想像するに、超高級車ブガッティやドライエのオーナーで本好きの連中が集まって好みの限定本を発行したのでしょう。なんだかアゼンとするような贅沢ですね。日本とは違い、未綴じのまま配本して各オーナーが自分好みの装丁をオーダーしました。

なかでも有名なのは " ラテンアメリカ愛書家協会 " で、ラテンアメリカになんらかの関わりを持つ文化人、政治家、外交官など会員数100名からなる愛書家クラブです。1926年から1964年まで、マルティ、バルビエ、シュミットなどの挿絵で豪華な限定私家本を発行しました 

画像下段は第一回発行の「誘惑者」で、会の創設者ラ・ロシュフコー伯爵に配本された記番1番です。右端はその会員証で、バルビエの稀少本を担当したF.L.シュミットによるデザインと木版刷りという贅沢ぶりです。

愛書家クラブの限定本は多くの場合部数も少なく記録もあまり残っていないので、巡り会いを待つしかありません。しかし手にすると、いにしえの愛書家と夢を共有できるという楽しみがあります。