青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

A・E・マルティ 挿絵本ランキング (その4 )

〈 第3ゾーン モノクローム版画挿絵本 〉

f:id:kenta1930:20210325222638j:plain
f:id:kenta1930:20210330154745j:plain
f:id:kenta1930:20210325222809j:plain
f:id:kenta1930:20210325222739j:plain
f:id:kenta1930:20210330162027j:plain
f:id:kenta1930:20210330161305j:plain

上段左から「神話の情景」「エローとレアンドル」「エルネスティーヌ」/ 下段左から「その日限り」「愛のしずく」「サッフォー」

 

ここにはサッカーワールドカップで言うところの “ 地獄のグループ ” さながらに、銅版画やリトグラフといったコストのかかる挿絵技法の秀作がひしめいています。その多くは愛書家クラブの私家版で、吟味された紙、洗練されたタイプフェースやレイアウトで一冊ずつ予約購入者の名前まで印刷されています。

銅版画、リトグラフ、木口木版画、どれもマルティ特有の光と影の美しさを存分に味わえる挿絵本です。

まずはエッチングの挿絵本から「神話の情景」と「エローとレアンドル」。影を消して非日常の神話的世界を浮かび上がらせています。アクアチントとエッチングの挿絵では、逆光の幸福感に満ちた「エルネスティーヌ」と夜の情景が美しい「その日限り」。ともに愛書家クラブ版で、対をなすような作品です。リトグラフでは物語性豊かな「愛のしずく」とマルティには珍しい大判の「サッフォー」。以上6点をノミネート。いずれもタイプフェースやレイアウト、紙質などもよく吟味された上質な挿絵本です。

この他にも、本文数ページながら手漉き紙とエッチング挿絵で画文集のような趣の「アプシス」、コンパクトなアクアチントの挿絵が魅力の「メレアグロスの詩」、普及本ながら木口木版による素朴な子供の情景がかわいい「我が友の本」(アナトール・フランス全集)など魅力ある作品がたくさんあります。

 

〈 注目の一冊「グニドの神殿」 〉

希少本揃いの銅版画挿絵本の中では珍しく1500部発行された作品で、古書市場に多く出回っています。アクアチント + エッチングの挿絵の出来も良く、マルティお得意の神話的世界を手軽に味わえます。上位トリアージには手梳きオーベルニュ紙刷りがありますが、挿絵そのものは通常版のアルシュ紙刷りでも変わらず楽しめます。

 

次回は印刷による挿絵本を取り上げます。( つづく)