青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

「アール・デコ挿絵本」の本 Ⅱ フジタとマルティ

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画像左から「藤田嗣治と愛書都市パリ」「藤田嗣治 本の仕事」「Marty! Marty! 1, 2」

 

挿絵本に限らないでしょうが、コレクションの最終盤では色々なことが起こります。テンパイ状態(あと一点)からなかなか最後の一作品に行き当たらなかったり、未知の作品が突然出現したり。これもコレクションの醍醐味ではありますが。

私の場合はマルティの挿絵本をあらかた集めつくした頃、なんと神秘主義の宗教書(マルティ挿絵)なるものがオークションに現れて驚きました。またバルビエの「ビリティスの歌」は有名なコラール版とは別に、もっとエロティックな秘密の私家版があることを最近知りました。研究書や作品解説書のあまりない挿絵本の場合はまさに手探りで進むしかありません。

同時代のキュビズムシュールレアリズムの画家と違って挿絵本画家やイラストレーターは研究対象ではなく、目で ” 消費 ” するものとされているのでしょう。バルビエやミュッシャは今でもポストカードになって " 消費 " され続けています。それはそれで幸せというべきでしょう。

フジタの場合も、画家としての研究書はあっても挿絵本はあまり取り上げられていません。画像左の二冊はともに希少なフジタ挿絵本の解説書です。中でも「藤田嗣治と愛書都市パリ」は北海道立近代美術館松濤美術館の展覧会図録として発行されたもので、有名作品の復刻ページなどは画集としても見応えがあります。フジタの挿絵本の仕事はこの二冊に網羅されていると言っていいでしょう。

一方画像右はマルティ愛好家、秋津久仁子さんの私家版です。内容は各号ともに二部構成で、前半は著者が独自に入手したマルティの手紙や手記を訳出したもの、後半はお気に入りの作品紹介で、いずれも随筆の形式をとった解説書となっています。中でも前半は、世界中でここの日本語でしか読めない貴重な資料で、マルティの挿絵画家としての考えや挿絵本ビジネスの一端を知ることのできる興味深い内容です。出版元の水仁舎と神戸の1003booksでも取扱いがあり、続編も予定されているようです。

挿絵画家の場合、既成のイメージが出来上がっていない分、さまざまな資料から人物像を想像する楽しみがあります。

 

 

 

今日の四冊 : 林洋子「藤田嗣治と愛書都市パリ」2012年 ㈱キュレイターズ刊 、「藤田嗣治  本の仕事」2011年 集英社刊  /  秋津久仁子「Mart ! Marty ! 1」2020年 、「Marty ! Marty ! 2」2021年 ともに水仁舎刊