挿絵本を創るもう一人のアーティスト
ペア画像の左が原画、右が挿絵。
上段から「誘惑者」、「ウルスラ・ミルーエ」、「愛のしずく」。 原画 A.E.マルティ
アール・デコ挿絵本の魅力の一つは、挿絵が印刷ではなくポショワール、エッチング、リトグラフといったいわゆる版画であることです。中でもポショワールはこの時代に流行った「型」を使った彩色法で、従来から壁紙などに使われていた素朴な技法をジャン・ソデが芸術的なレベルにまで高めました。
これらの版画挿絵に共通するのは、原画を描く画家と版を彫って刷り上げる職人とが分業になっているということです。浮世絵に似ていますね。浮世絵の場合は絵師と彫り師、刷り師の三分業ですが。したがって同じ原画でも版を扱う職人の技量と感性によって挿絵は大きく変わってくるというわけです。
ポショワールの第一人者ジャン・ソデはファッションプレートやブルネレスキの「フィリ」、バルビエの「二匹の緑とかげが引く馬車」に見られる冴えた色彩が持ち味ですが、マルティの「誘惑者」でも原画の彩度を少し上げて効果的な挿絵に仕上げています。
「ウルスラ・ミル―エ」ではフェラリエッロ・アトリエがポショワールを担当しています。配色は原画に忠実に再現し、描線だけををすっきりと整理しています。
「愛のしずく」でリトグラフを担当したムーロ兄弟工房はマルティの自由な鉛筆のタッチを整理しコントラストをつけてより力強い挿絵にしています。
いずれの場合も製版の職人が原画の持ち味を尊重しながらさらに高めていることがよく分かります。
アール・デコ挿絵本はテキストの原作者、挿絵画家、版と刷りの職人、さらには購入者が発注する装幀家たちがコラボした小さな総合芸術といえるでしょう。
今日の三冊 : G.ドゥーヴィル「誘惑者」1926年、ラテンアメリカ愛書家協会刊 / バルザック「ウルスラ・ミルーエ」1947年、モンソー書店刊 / ド・ビラン「愛のしずく」1954年、フーケ&ボディエ刊。