青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

アールデコを彩った " ポショワール " その2

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ポショワール+フォトタイプ印刷 : 左から「ある子供の物語(オールテキスト部分)」「シルヴィー」「至高の青春 & ある貧しい将校」

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ポショワール+ヘリオグラビア印刷 : 左から「静観詩集」2点、「ある子供の物語(カット部分)」

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ポショワール+線画凸版? : 左から「青い鳥」「七宝とカメオ」2点

 

今回はポショワールと印刷技法との組み合わせを見ていきたいと思います。

Ⅳ. フォトタイプ印刷(コロタイプ印刷)    写真製版の一種。光量によって固まり方の違う感光ゼラチンで版を作る、とても手工芸的な印刷技法。印刷特有の規則正しい網点がなく自然な階調が再現できるので、現在でも墨絵や書の複製に使われる。ローコストでの少量生産も可能なのでポショワールとの組み合わせに多く使われた。写真製版によって原画のタッチがそのまま再現できる一方、グレートーンにもポショワールを載せるため、くすんだ色調になることもある。「ある子供の物語」「至高の青春&ある貧しい将校」(ともにオールテキスト部分)、「シルヴィー」

Ⅴ. ヘリオグラビア印刷       写真製版によるグラビア印刷。印刷らしい網点がある以外はフォトタイプ印刷と同じ特性。早々に、レベルの向上したカラーオフセット印刷に取って代わられたためかあまり例は多くない。「静観詩集」「ある子供の物語」(カット部分)

Ⅵ. PIAZZA社の秘法 ?     奥付に記載がないだけで、技法そのものは実は秘法でもなんでもありません。PIAZZA社はレベルの高い挿絵本を大部数でリーズナブルに出版した版元です。マルティの代表作「青い鳥」「風車小屋だより」は記番10000以上、「七宝とカメオ」に至ってはおそらくそれらを上回っているでしょう。多くは記番もありません。

おどろくことに記番が三ケタでも五ケタでも挿絵の美しさや線描のディテールは全く変わりません。ポショワールは手仕事なので職人の品質管理を徹底すればそれも可能ですが、不思議なのは黒色の線画部分です。仮に木版でこの部数を刷ると摩耗で描線が乱れてしまい、かといって何度も版を作り直すと細部は微妙に違ってくるうえ高コストになってしまいます。

考えられるのは金属の線画凸版で、これだと一つの版で大量印刷できるうえに写真製版なので原画のディテールがそのまま再現できます。たしかに細部をよく見ると、木口木版では再現しにくい勢いのあるペンのタッチが生々しく刷られています。ごくありふれた印刷技法なのであえて奥付には記さなかったのかもしれません。

線画凸版でコストダウンした分、ポショワールのグレードを上げて高品質な挿絵本を量産したのでしょうか。確かな資料は見当たらないのであくまでも推測です。

手彩色より安定した品質で、印刷よりも鮮やかなポショワールという技法によって、アールデコ挿絵本は他のどの時代にもない魅力的な彩りを持つことになりました。