アールデコを彩った " ポショワール " その1
ポショワール+木口木版(スミ版): 左から「フローラの王冠」「ミュッセ全集」2点
ポショワール+木口木版(色版) : 左から「雅歌」「エレーヌのソネット」「カサンドルの恋歌」
ポショワール+エッチング : 「誘惑者」3点とも。
ポショワールはアールデコのファッション誌や挿絵本とともに発展し、ともに滅びた幻の技法です。仕組みは簡単で、型を使って筆やハケで彩色するいわゆるステンシルです。従来から壁紙などに使われていた素朴な技法をジャン・ソデが芸術的なレベルにまで高めました。
三原色を重ねる印刷とは違い、それぞれの色の顔料を厚塗りで刷るため、発色の美しさは比類ありません。ただし「面」の表現しかできないので単独で使われることはあまりなく、線描や小さな目鼻などの細かい表現ができる他の技法とペアで使われました。よく知られているのは木口木版(年輪の見える切り口を使った凸版)ですが、他にも技術革新やコストの関係で様々な組み合わせが試みられたようです。
ポショワールについての資料はあまり残っていないので、ここでは作品数の多いマルティの挿絵本を例に、奥付と挿絵そのものを手がかりとして考えてみました。
組み合わせの相手は、分かる限りでは木口木版二種、エッチング(銅版)、フォトタイプ印刷、ヘリオグラビア印刷、そしてPIAZZA社の秘法 ? です。
Ⅰ. 木口木版(1) 代表的な組み合わせで、輪郭線や目鼻など細かい部分を黒色(スミ)版で刷るもの。「フローラの王冠」「ミュッセ全集」
Ⅱ. 木口木版(2) ビュラン(刀)でトーン(濃淡)をつけた色版を使う。ポショワールとの組み合わせで水彩画のような豊かな色彩表現ができる。「雅歌」「カサンドルの恋歌」「聖ヨハネ祭の夜」
Ⅲ. エッチング 銅版凹版による黒色の線描。木版よりも繊細な表現が可能。「誘惑者」「ランジェ候爵夫人」
ここまではポショワールと、木口木版やエッチングといった古典的な版画技法との組み合わせを見てきました。次回は印刷技法との組み合わせを考えたいと思います。 つづく