青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

アール・デコの “ それから ”  G・ルパープ

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以前、 “ あの人は今 ” というバラエティ番組がありました。かつての人気者の今を覗き見るという失礼な番組です。考えてみれば、世の “ 流行りすたり ” に比べて人生の方が長いのは芸能界に限らず厄介なことですね。アール・デコのスター達は大流行の後をどう過ごしたのでしょう。

バルビエとマルタンは流行の終焉と時を同じくして没しました。若死にですが人気アーティストとしては幸せだったかもしれません。マルティは1974年に亡くなるまで同じスタイルで人気を保ちました。彼の本質は流行としてのアール・デコスタイルとは無縁だったのでしょう。ブルネレスキは持ち前の華やかな色使いとデッサン力で高級ポルノ挿絵の人気者になりました。

さてルパープはというと、ポール・ポワレに見出だされてアール・デコのファッションイラストを確立した当人だけに、その後の変身は容易ではなかったようです。後期の作品に見られる過剰なデフォルメは我々を戸惑わせます。しかし、それにしては彼は挿絵本の仕事をたくさんこなしました。シビアなパリの出版界が過去の名声だけで発注を続けたとは思えません。

彼の挿絵の魅力はその大胆な構図と人物のポージングにあります。バルビエがニジンスキーのダイナミックな動きの一瞬を切り取ったのに対し、ルパープの場合は対象の人物に大胆なポーズをとらせているのです。モデルがランウェイを進み、一瞬立ち止まって見せるあのポーズです。とてもわざとらしくて、それでいてオシャレなあの人工的なポーズこそが彼の得意技なのです。これは初期のファッションイラストの時代から変わっていません。この場合、背景を描き込むとそのわざとらしさが悪目立ちしてしまいます。画面一杯に描き込むオールテキスト(フルページの挿絵)より背景が白く抜けたヴィニェット(本文に組み込まれた挿絵)の方が生き生きと見えるのです。

 1940年代後半になると彼の持ち味を生かした挿絵本が多く出版されました。この “ 君と僕 ” もその一つで、美しいタイポグラフィとマッチしてとてもオシャレな作品になっています。

 

今日の一冊 : ポール・ジェラルディ著「君と僕」1947年、イル・ド・フランス社刊。