青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

プロヴァンスの光と風 「風車小屋だより」 A.E.マルティ

 

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 マルティの「風車小屋だより」はアール・デコ挿絵本としてはめずらしく版を重ね、総数は約一万部に上りました。ほとんどが数百から多くても二千部程度で出版される挿絵本の中では、例外的な多さです。

それでもイメージが落ちることはなく、逆に数をこなすことで多くの挿絵や複雑なレイアウトのコストを吸収し、挿絵本としての魅力を高めています。

なかでも「カマルグ紀行」はマルティ挿絵の最高傑作の一つでしょう。猟のヘタな主人公が撃ち損ねたカモの群れを見送るシーンで、のどかな人柄まで伝わってくるようです。見開きで2ページにわたるインテクストのレイアウトが見事。

「詩人ミストラル」の挿絵もいいですね。主人公が思いたって友達の詩人を訪ねていくシーン、実は本文では大雨をついて出かけることになっています。

マルティがなぜあえてテクストに反したかは謎ですが、この光と澄んだ空気感は「プロヴァンス語賛美」という主題にとてもよく合っています。

章ごとのレトリーヌ(飾り文字)もとてもかわいい。

初版も再版もポショワールの挿絵はまったく変わりません。職人の品質管理がよほど行き届いていたのでしょう。

大量出版、高クオリティというピアッツァ社のマーケティング戦略のおかげで、80年後の愛書家も挿絵本を手軽に楽しめるというわけです。

 

 

今日の一冊:アルフォンス・ドーデ「風車小屋だより」1938年(初版)、ピアッツァ社刊