名探偵とアール・デコ
映画やTVドラマでアール・デコのファッションを目にすることはよくあります。人気ドラマシリーズ「ダウントン・アビー」にも美しい衣装がたくさん登場して目を楽しませてくれました。一方、アール・デコのインテリアはあまり見かけることはありません。参考になる現物が多く残っている衣装とは違ってセット作りが大変なのでしょうか。
TVドラマ「名探偵ポワロ」は、珍しくそんなアール・デコのインテリアを楽しめるドラマです。ポワロのオフィスはセットでしょうが、ロケでも朝香宮邸(都立庭園美術館)さながらのお屋敷がいくつも登場します。いくらあの時代でも全てのお屋敷がアール・デコでもないでしょうが、ドラマでは強欲な実業家の邸宅までが洗練されたインテリアで、レンピッカ風の肖像画が掛かっているという徹底ぶりです。きっと美術担当者がしっかりとしたポリシーを持っていたのでしょう。ジャップ警部役のフィリップ・ジャクソンはこのドラマのインテリアが大好きだったそうです。どこから見てもロンドン警視庁の主任警部そのものの強面オジサンがアール・デコ好きというのも面白いですね。
ところでこの役者に限らずイギリスの俳優が見せる独特のリアリティは何でしょうね。役の向こうに俳優自身が見え隠れするハリウッドとは違い、役柄の人物そのものに見えます。クセの強いキャラクターを、コメディに堕することなくリアルに演じたデヴィッド・スーシェをはじめとして、ポワロに味見をさせるチョコレート屋のオヤジや駅の新聞売りの少年といった端役に至るまでリアルそのものです。きっとイギリス演劇界には独特のメソッドがあるのでしょう。
先日アカデミー賞を受賞したアンソニー・ホプキンスが、以前ニュースステーションにゲスト出演した時のこと、彼が演技について話し出したのに久米宏が話題をチャラい方向に振ってしまって、みるみる不機嫌になったのを覚えています。軽薄なキャスターのせいでイギリス演劇の秘密を聞き損なったかもしれません。
画像のDVD、謎解きの喜びはトリックを忘れない限り一回きりですが、ディテールまで行き届いたセットや役者の演技は何度見ても新しい発見があって楽しめます。