青い鳥

アール・デコ挿絵本の魅力を思いつくまま

インバウンドこと始め 「日本散策 東京ー日光」 フェリックス-レガメ挿絵

 

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 アール・デコ期からさかのぼること50年、フランスはリヨンの大ブルジョア紳士が画家を伴って明治初期の日本を訪れています。名はエミール・ギメ。有名なギメ東洋美術館の創始者です。

ブルジョアに似合わずフットワークも軽く、開国間もない日本を楽しんで旅行記を残しています。同時期のイギリス人旅行家イザベラ・バードの客観的な旅行記に比べると、自身の印象や知識をあれこれと思いつくままに記した随想文ですが、変革期の日本の庶民の様子が生き生きと描かれています。

この本の魅力は何といっても、同行のフェリックス・レガメによる100点にも上る挿絵でしょう。中でも多いのが人物像で、車夫や茶店の給仕など身近に接した人々の様子を挿絵に残しています。ある茶店の娘の横顔がマリー・アントワネットのようだとか、言葉の通じない客を「鯉寄せ」で楽しませてくれたとか、タイツをはき忘れた王子様のような少年が給仕をしてくれたとか(どんな格好!?)。二人とも生きのいい若い人々がお気に入りだったようです。

圧巻は人気風刺画家の河鍋暁斎宅を訪ねるシーン。レガメと暁斎がお互いの肖像を即興で描きあう様子を、まるで筆の決闘のようだと喜んでいます。

また、日光の仁王像のまわりを飛ぶツバメにたとえて「輪廻転生」を説明するくだりでは「あのツバメは旅行好きのイギリス女性にでもなって、オペラグラスをぶら下げ日光に再びやってきては、お寺の様々な事物に驚くのではなかろうか」と述べています。ギメさん、バード女史をネタにしてうまく話をまとめたと思ったら、なんとバードの日本訪問はギメの2年後のこと。イメージが事実を呼び込んだような不思議な記述です。

このあとギメは多くの美術品を買い付けて帰り、後のギメ東洋美術館の基礎を作りました。

オリジナルは豪華大型本ですが、手軽なファクシミリや日本語訳の文庫が出ていて、ほとんどの挿絵は収録されています。

 

今日の一冊:エミール・ギメ「日本散策 東京―日光」1880年、G.シャルパンティエ社刊。/ (日本語訳)角川ソフィア文庫「明治日本散策」